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相続のよくあるご質問
自筆証書遺言を書きたいと思います。どのような点に気をつければよいでしょうか。

自筆証書遺言を書きたいと思います。どのような点に気をつければよいでしょうか。

回答

自筆証書遺言が有効であるためには、遺言の形式的要件と実質的要件を満たす必要があります。

形式的要件とは、以下の4点が満たされていることをいいます。

1.全文自筆(パソコンでプリントアウトしたものや代筆は、原則として不可) 

2.日付の記入(○月○日まで記載する。○月吉日は不可)

3.署名(戸籍上の氏名で正確に記載する)

4.捺印(実印が望ましい)

実質的要件とは、遺言作成者が遺言作成時において、遺言の内容を理解するに足る意思能力があったことをいいます。遺言作成時にこの要件を満たしていれば、作成後に満たさなくなっても遺言は有効です。例えば、遺言作成時には意思能力はあったものの、作成後に認知症になり意思能力を失った場合でも、遺言は有効です。

なお、上記要件を満たさない遺言は無効となります(民法960条)ので、その場合は民法の定める法定相続分の規定に従い、遺産分割等を行うことになります。

解説

1.自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言の方式の一種で、遺言者が、その全文、日付、氏名を自署した上で、押印する方法によって作成する遺言のことをいいます(民法968条1項)。

遺言の方法には、他に公正証書遺言、秘密証書遺言等があります。自筆証書遺言は作成に費用がかからず、秘密裏に作成できるという利便性がある一方、形式不備による無効のリスクや死後発見されないリスクがあります。

2.自筆証書遺言の書き方

自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、氏名を自署した上で、押印する必要があります。パソコンで作成して署名だけ自署したもの、代筆されたもの、作成日付が明らかでないもの、押印のないものは、原則として無効となってしまいます。

また、財産を特定して遺贈する場合には、対象となる財産を正確に記載する必要があります。例えば不動産を遺贈する場合、不動産登記簿の記載通り、正確に所在や地番を自署することが大切です。

自署に使用するペンは、ボールペンなど、簡単に消せないもので、長期間保管しても印字が薄くならないものを使用します。用紙は何でも構いませんが、破れやすい紙や余計な文字が印字されている用紙は避けるようにします。

押印は、認印でも構いませんが、できれば実印を押した上で、印鑑証明書もセットで保管する方がよいでしょう。

自筆証書遺言の方式の緩和

平成31年1月13日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。平成30年7月6日成立)のうち、自筆証書遺言の方式の緩和に関する部分が施行されました。

これにより、財産目録の全部又は一部について、パソコン等で作成した目録を添付することが可能となりました。ただし、自署によらない場合で、目録が複数枚にわたるときは、ページごとに署名捺印をする必要があります(民法968条2項)。また、自署の例外が認められるのは、あくまで財産目録のみとなります。したがって、誰に何を相続させるといった遺言書本文についは、これまで通り全文自署で作成しなければなりません。

3.自筆証書遺言の内容を変更、撤回したい場合

自筆証書遺言の内容に、文字を加えたり、文字を削除したい場合は、遺言者自身が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じないとされています(民法968条3項)ので、注意しましょう。

4.自筆証書遺言の保管方法

自筆証書遺言は、遺言を作成したことや、遺言の内容を秘密にすることができる遺言の方式です。公正証書のように、公証人の関与や証人2名の立会いも不要です。

その反面、作成された事実やその内容が家族や第三者に分からないという特徴があります。そのため、保管方法や場所によっては、自筆証書遺言を作成したものの、死後誰にも発見されないというリスクがあります。また、遺言者自身が認知症になり、保管場所を思い出せなくなるケースも考えられます。

したがって、自筆証書遺言を作成したときは、遺言者が死亡した際に速やかに発見されるように、身近で信頼のできる人に預けておくことが望ましいといえるでしょう。もしそのような信頼できる人がおらず、保管が心配な場合は、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言を作成することも考えられます。

法務局における遺言書保管制度

平成30年7月6日、法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)が成立しました(同年7月13日公布)。この法律は、法務局において自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度を定めたものです。自筆証書遺言を作成し、保管に不安がある方は、この制度の利用を検討してもよいでしょう。

ただし、遺言書保管法の施行期日は、令和2年7月10日と定められています。したがって、令和2年7月10日より前に、法務局に対して遺言書の保管を申請することはできないので、注意が必要です。

参考条文

民法

(遺言の方式)

第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

(自筆証書遺言)

第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

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