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相続のよくあるご質問
相続法改正・遺産の一部分割とは

遺産の一部分割はどんな場合に認められますか(令和元年7月施行)

回答

遺産の一部分割とは、相続人全員の合意のもとで、争いのない遺産の一部について、先に遺産分割することをいい、以下の場合に認められています。

①被相続人が遺言で遺産分割を禁じていないこと

②相続人全員の合意があること

③(一部分割の審判を行う場合)他の共同相続人の利益を害するおそれのないこと

解説

1.遺産の一部分割とは

遺産の一部分割とは、相続人全員の合意のもとで、争いのない遺産の一部について、先に遺産分割することをいいます。

民法改正前においても、遺産の一部分割は可能とされており、実務上もよく行われてきましたが、一部分割を認める明文規定はありませんでした。また、民法改正前の遺産分割は、すべての遺産を1回で分割することが原則とされ、一部分割はあくまで例外的に認められるものという取扱いでした。

しかし、民法改正により、「共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる」ものとされ、原則として遺産の一部分割ができることが明らかにされました(民法907条1項)。

また、相続人間で協議がまとまらない場合や協議をすることができない場合は、各共同相続人は、「その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる」とされ、一部分割の調停や審判を家庭裁判所に求めることができる旨が明文化されました(民法907条2項)。

2.遺産の一部分割が認められる要件

遺産の一部分割が認められる要件は、次のとおりです。

被相続人が遺言で遺産分割を禁じていないこと

相続人全員の合意があること

(一部分割の審判を行う場合)他の共同相続人の利益を害するおそれのないこと

3.遺産の一部分割が想定されるケース

遺産の一部分割が想定されるケースは、次のとおりです。

3-1.相続税の支払に充てるため、遺産のうち預貯金を先に分割するケース

相続税が課税されるケースでは、相続税の申告及び納税は、相続人が被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。

そして相続税の納税は、原則として金銭で行う必要があるため、納税資金のため、預貯金を先に分割するケースが考えられます。

3-2.一部の不動産を売却し、相続税の支払や分配額の調整に充てるケース

預貯金だけでは相続税の納税額に足りないケースや、各相続人への分配額を調整したいケースでは、一部の不動産を売却することで、それらの原資とすることが考えられます。

3-3.争いのない遺産を先に分割し、遺産性、評価額等について争いのある遺産を後に分割するケース

遺産性や評価額等について争いがある場合、その確定までにかなりの時間を要することが考えられます。

そのような場合、分割が容易かつ分割内容に争いがない遺産を先に分割することが有用となります。

参考条文

民法

(遺産の分割の協議又は審判等)

第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)

第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

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