回答
相続分の譲渡とは、共同相続人の有する遺産全体に対する割合的な持分を移転することをいいます。例えば、法定相続分4分の1を有する共同相続人の一人が、その4分の1の相続分を他の共同相続人に譲渡するような場合です。
相続分を譲渡するに際して、方式に決まりはありません。しかし、相続分の譲渡によって、譲渡人は自身の相続分を失うという重大な効果が生じるため、実務上(相続手続上)は、譲渡人が自らの意思で相続分を譲渡したことを明確にするため、相続分の譲渡を証する書面に署名し、実印の押印及び印鑑証明書の添付を求められることが通常です。
解説
1.相続分の譲渡とは
相続分の譲渡とは、共同相続人の有する遺産全体に対する割合的な持分(包括的な持分)を移転することをいいます。
なお、相続分の譲渡によって移転するのは、遺産を構成する個々の財産の共有持分権ではなく、遺産全体に対する包括的な持分です。
2.相続分の譲渡の手続
相続分を譲渡する場合の方式は自由であり、口頭でも譲渡は可能です。しかし、相続分の譲渡によって、譲渡人は自身の相続分を失うという重大な効果が生じるため、実務上(相続手続上)は、譲渡人が自らの意思で相続分を譲渡したことを明確にするため、相続分の譲渡を証する書面に署名し、実印の押印及び印鑑証明書を添付することが一般的です。
3.相続分の譲渡の効果
相続分の譲渡がなされると、譲渡人は遺産分割前の遺産について相続分(共有持分権)を失うことになるため、遺産分割協議や遺産分割調停・審判の当事者ではなくなります。
一方、譲渡を受けた譲受人は、遺産に対する包括的な持分を取得するため、遺産分割協議や遺産分割調停・審判の当事者となります。また、譲受人は、相続債務についても、譲渡を受けた相続分の割合で債務を承継することになります。
3-1. 他の相続人の相続分に与える影響
相続分の譲渡がなされると、譲渡を受けた相続人の相続分が譲渡を受けた割合にて増加することになります。例えば、4分の1の相続分を有する相続人が、他の4分の1を有する相続人に相続分を譲渡した場合、譲渡を受けた相続人の相続分は4分の2となります。
3-2. 家庭裁判所の遺産分割調停・審判との関係
遺産分割調停の申立前に、相続分の譲渡が行われた場合、譲渡をした相続人は、遺産分割調停・審判の当事者ではなくなるため、原則として遺産分割調停・審判の手続に参加する必要はありません。
遺産分割調停の申立後に、相続分の譲渡が行われた場合には、調停の手続上、相続分の譲渡証書、譲渡人の印鑑証明書等を家庭裁判所に提出する必要があります。それらの書類が提出されると、家庭裁判所は、相続分の譲渡をした相続人を遺産分割調停等の当事者たる地位を失わせる排除決定をします。排除決定が確定すると、相続分の譲渡をした相続人は遺産分割調停等の当事者ではなくなります。
ただし、遺産となる不動産に法定相続分による相続登記が入っている場合など、相続分の譲渡をした相続人が登記手続上の持分移転登記義務を負う場合や、占有移転義務などを負う場合には、相続分を譲渡した相続人であっても、事実上の利害関係人として調停等に参加することがあります。
3-3.相続登記手続との関係
3-3-1.共同相続人間で相続分の譲渡があり、相続登記が未了の場合
この場合には、相続分の譲渡がなされた後の法定相続分の内容で、直接相続登記を入れることができます。相続分の譲渡証書、譲渡人の印鑑証明書等の書類を法務局に提出する必要があります。
3-3-2.共同相続人間で相続分の譲渡があり、相続登記が既になされている場合
あまりケースは多くないですが、この場合には、相続分を譲渡した相続人から、譲渡を受けた相続人に対して、譲渡した持分の移転登記を行います。相続分の譲渡証書や印鑑証明書のほか、相続登記の際に発行された登記識別情報も必要となります。
3-3-3.第三者に対して相続分の譲渡があり、相続登記が未了の場合
この場合には、共同相続人間で相続分の譲渡がなされた場合と異なり、譲渡をした相続人への相続登記を省略することはできません。そのため、一旦相続を原因として共同相続人への相続登記をした上で、第三者に対して移転登記を行います。この場合も、相続分の譲渡証書や印鑑証明書のほか、相続登記の際に発行された登記識別情報も必要となります。
3-3-4.第三者に対して相続分の譲渡があり、相続登記が既になされている場合
この場合には、相続分を譲渡した相続人から、譲渡を受けた相続人に対して、譲渡した持分の移転登記を行います。相続分の譲渡証書や印鑑証明書のほか、相続登記の際に発行された登記識別情報も必要となります。