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相続のよくあるご質問
相続法改正・自筆証書遺言の変更点と遺言書保管制度について

自筆証書遺言に関する民法改正内容、遺言書保管制度について教えてください(平成31年1月、令和2年7月施行)

回答

自筆証書遺言に関する民法改正により、遺言者は、自筆証書遺言の財産目録部分について、パソコンで作成した目録や不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)、通帳の写し等を添付することができるようになります。

 

その場合、遺言者は、財産目録の各ページ(自書によらない記載がその両面にある場合は、その両面)に署名押印することが必要です(民法968条2項後段)。

 

遺言書保管制度は、自筆証書遺言について、遺言者からの申請により、法務局に遺言書を保管する制度です。

 

遺言書保管制度により、遺言書の紛失、改ざん、隠匿のおそれがなくなることに加え、自筆証書遺言の存在や内容を、相続人、受遺者及び遺言執行者が早い段階で知ることができるようになることが期待されています。また、遺言書の検認が不要となるメリットもあります。

 

解説

1.自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言を作成する方式の一つで、遺言者が、その全文、日付、氏名を自書した上で、押印する方法によって作成する遺言のことをいいます(民法968条1項)。

 

なお、遺言を作成する方法には、他に公正証書遺言、秘密証書遺言等があります。

 

2.自筆証書遺言の書き方、作成方法

自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、氏名を自書した上で、押印する必要があります。パソコンで作成して署名だけ自書したもの、代筆されたもの、作成日付が明らかでないもの、押印のないものは、原則として無効となってしまいます。

 

また、財産を特定して遺贈する場合には、対象となる財産を正確に記載する必要があります。例えば不動産を遺贈する場合、不動産登記簿の記載通り、正確に所在や地番を自書することが必要です。

 

3.自筆証書遺言の作成方法に関する民法改正

このように、遺言書の全文に自書を要求する趣旨は、遺言書の効力発生時(遺言者の死亡時)に、遺言書の内容について遺言者本人に確認することができないことから、全文を自書させることによって、遺言者の意思を明確にする点にあります。

 

しかし、財産が多い方や高齢で字がうまく書くことができない方にとって、財産目録も含めて全て自書することは、困難な場合も想定されます。

 

そこで民法改正(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。平成30年7月6日成立)が行われ、平成31年1月13日、自筆証書遺言の方式の緩和に関する部分が施行されました。

 

3-1.改正によって変わった点

前述のとおり、自筆証書遺言を作成するには、遺言者がその全文、日付、氏名を自書した上で、押印する必要があります。

 

このうち、改正によって変わった点は、遺言書のうち、財産目録部分については、自書しない方法も選択できる、という点です。

 

すなわち、遺言者は、自筆証書遺言の財産目録部分について、パソコンで作成した目録や不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)、通帳の写し等を添付することができるようになりました。目録の作成者は遺言者以外の第三者でも構いません。

 

なお、自書の例外が認められるのは、あくまで財産目録のみとなります。したがって、「誰に何を相続させる」といった遺言書本文の内容についは、これまで通り全文自書で作成しなければなりません。

 

また、自書によらない財産目録は、別紙として遺言書本文に添付するものであるため、遺言書本文とは別の用紙で作成される必要があります。遺言書本文と同じ用紙に、自書によらない別紙財産目録の記載をすることはできません。

 

3-2.財産目録部分を自書しない場合の記載方法

自筆証書遺言に添付する財産目録部分を自書しない場合、遺言者は、財産目録の各ページ(自書によらない記載がその両面にある場合は、その両面)に署名押印することが必要です(民法968条2項後段)。

 

また、この場合の遺言書本文と財産目録は、一体として作成されたものと考えられることから、契印を行うなどの方法により、その一体性に疑義が生じないような方法で作成することが望ましいといえるでしょう。

 

財産目録部分を自書しない場合の自筆証書遺言の記載は、以下のような様式が考えられます。

(本文)

遺  言  書

 

1.私は、別紙財産目録1及び2の不動産を、妻中部春子(昭和○年○月○日生)に相続させる。

2.私は、別紙財産目録3の預貯金を、長男中部夏男(平成○年○月○日生)に相続させる。

3.私は、別紙財産目録4の貯金を、長女中部秋子(平成○年○月○日生)に相続させる。

 

令和○年○月○日

 

   名古屋市中村区名駅○丁目○番○号

   遺言者 中部 太郎  ㊞

(別紙)

財産目録

 

1 土地

 所  在 名古屋市中村区名駅○○

 地  番 ○番○

 地  目 宅地

 地  積 ○○.○○平方メートル

 

2 建物

 所  在 名古屋市中村区名駅○○番地

 家屋番号 ○番○

 種  類 居宅

 構  造 木造スレート葺2階建て

 床 面 積 1階 ○○.○○平方メートル

      2階 ○○.○○平方メートル

 

3 預貯金 

 (1)○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○

 (2)ゆうちょ銀行   通常貯金 記号○○ 番号○○

 

4 貯金

  ○○農業協同組合 ○○支店 普通貯金 口座番号○○○○

  中部 太郎  ㊞ 

 

 

4.自筆証書遺言の保管制度

自筆証書遺言の保管制度は、自筆証書遺言について、遺言者からの申請により、法務局に遺言書を保管する制度です(法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)。

 

4-1.遺言書保管制度の手続の概要

法務局における遺言書保管制度の手続の概要は、次のとおりです。

 

4-1-1.自筆証書遺言書の保管申請

法務局における遺言書の保管は、遺言者から遺言書保管官に対する申請によって行われます。

 

①遺言書保管の申請先

遺言書保管の申請は、次のいずれかを管轄する遺言書保管所遺言書保管官に対して行う必要があります。

・遺言者の住所地

・遺言者の本籍地

・遺言者が所有する不動産の所在地

・遺言者の作成した他の遺言書が現に遺言書保管所に保管されている場合にあっては、当該他の遺言書が保管されている遺言書保管所

 

②申請できる遺言書の形式

申請できる遺言書の形式は、封のされていない、法務省令で定める様式にしたがって作成された自筆証書遺言書のみとなります。

 

③申請できる人

遺言書の保管の申請は、遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならないため、遺言者本人が申請人となります。

 

遺言者本人が出頭した際、遺言書保管官は、申請人が遺言者本人であるかどうかの確認を行います。

 

④手数料

次の者は、政令で定める額の手数料を、収入印紙にて納めなければなりません。

 

・遺言書の保管の申請をする者

・遺言書の閲覧を請求する者

・遺言書情報証明書又は遺言書保管事実証明書の交付を請求する者

 

4-1-2.遺言書保管官による遺言書原本保管及び遺言情報管理

遺言書保管官は、保管の申請がされた遺言書について、遺言書保管所の施設内において原本を保管するとともに、その画像情報等の遺言書に係る情報を管理します。

 

4-1-3.遺言者による遺言書の閲覧、保管申請の撤回

遺言者は、保管申請を行った遺言書について、いつでもその閲覧を請求することができます。この場合、遺言者本人が出頭する必要があります。

 

また、遺言者は、いつでも、遺言書の保管申請の撤回を行うことができます。この場合も、遺言者本人が出頭する必要があります。

 

4-1-4.遺言者の死亡後、相続人等による請求等

次の者は、遺言者の死亡後、遺言書保管官に対し、保管されている遺言書にかかる遺言書情報証明書の交付請求及び保管されている遺言書原本の閲覧請求等をすることができます(同法9条)。

 

①遺言者の相続人

②遺言書に記載された次の者又はその相続人(遺言による認知の場合、母の相続人は胎内の子に限ります)

・受遺者

・遺言によって認知された子(胎内に在る子の場合は、その母)

・遺言によって廃除された推定相続人又は廃除を取り消す意思を表示された推定相続人

・遺言によって祖先の祭祀を主宰すべき者と指定された者

・国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号)第十七条の五第三項の規定により遺族補償一時金を受けることができる遺族のうち特に指定された者又は地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)第三十七条第三項の規定により遺族補償一時金を受けることができる遺族のうち特に指定された者

・信託法(平成十八年法律第百八号)第三条第二号に掲げる方法によって信託がされた場合においてその受益者となるべき者として指定された者若しくは残余財産の帰属すべき者となるべき者として指定された者又は同法第八十九条第二項の規定による受益者指定権等の行使により受益者となるべき者

・保険法(平成二十年法律第五十六号)第四十四条第一項又は第七十三条第一項の規定による保険金受取人の変更により保険金受取人となるべき者

・上記のほか、これらに類するものとして政令で定める者

③遺言書に記載された次の者

・遺言により指定された遺言執行者

・遺言により指定を委託された第三者に指定された遺言執行者

・民法第八百三十条第一項の財産について指定された管理者

・民法第八百三十九条第一項の規定により指定された未成年後見人又は同法第八百四十八条の規定により指定された未成年後見監督人

・民法第九百二条第一項の規定により共同相続人の相続分を定めることを委託された第三者、同法第九百八条の規定により遺産の分割の方法を定めることを委託された第三者又は同法第千六条第一項の規定により遺言執行者の指定を委託された第三者

・著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第七十五条第二項の規定により同条第一項の登録について指定を受けた者又は同法第百十六条第三項の規定により同条第一項の請求について指定を受けた者

・信託法第三条第二号に掲げる方法によって信託がされた場合においてその受託者となるべき者、信託管理人となるべき者、信託監督人となるべき者又は受益者代理人となるべき者として指定された者

・上記のほか、これらに類するものとして政令で定める者

 

4-1-5.遺言書保管官による相続人等への通知

遺言書保管官は、遺言書情報証明書を交付し、又は相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは、速やかに、当該被相続人にかかる遺言書を保管している旨を、遺言者の相続人受遺者及び遺言執行者に通知します(同法95項)。

 

ただし、これらの者が既に遺言書が保管されていることを知っているときは、通知はなされません。

 

4-2.遺言書保管制度を利用するメリット

自筆証書遺言については、作成手続が簡便である一方、次のようなデメリットがあると言われてきました。

 

①検認手続が必要

②形式不備により無効となる可能性がある

③遺言書が発見されない可能性がある

④全文を自書する必要がある

⑤偽造、変造、隠匿の可能性がある

⑥遺言能力や文言の解釈を巡って争いになることがある

 

しかし、前述の作成方法の要件の緩和(財産目録部分については、自書しない方法も選択できる)に加え、遺言書保管制度の創設により、デメリットと言われてきた部分の一部が解消される可能性も考えられます。

 

4-2-1.検認手続が不要

公正証書遺言を除く遺言書は、相続開始後、検認手続が必要であるのが原則です。しかし、遺言書保管所に保管されている自筆証書遺言書については、公正証書遺言同様、検認手続は不要となります(同法11条)。

 

そのため、相続開始後、速やかな遺言執行が可能となります。

 

4-2-2.保管申請時に、遺言の形式に不備がないかチェックを受けることができる

自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、氏名を自書した上で、押印して作成するのが原則です。

 

日付の記載がなかったり、本文をパソコンで作成した上で署名のみ自書しているような場合、自筆証書遺言の形式要件を満たさず、遺言は無効となってしまいます。

 

しかし、遺言書保管制度においては、遺言書の形式面(署名、押印、日付等)の不備については、申請の際にチェックを受けることができるため、形式面の不備による無効のリスクが少なくなります。

 

ただし、公正証書遺言と異なり、遺言書保管制度においては、遺言書の内容や遺言能力の有無のチェックは行われないため、相続開始後に遺言の有効性が争われる可能性がある点には注意が必要です。

 

4-2-3.遺言書の紛失、改ざん、隠匿のおそれがない

遺言書保管制度は、法務局において遺言書の原本を保管するとともに、遺言書の画像をデータ化することで、遺言書の有無の検索を用意にし、遺言書の紛失、改ざん、隠匿などを防止する制度です。

 

そのため、遺言書保管制度を利用した遺言書については、通常は、遺言書の紛失、改ざん、隠匿のおそれがないものといえるでしょう。

 

4-2-4.遺言書の発見が容易となる

相続人、受遺者、遺言執行者等は、相続開始後、全国の遺言書保管所に対して、遺言書が保管されているかどうかを調べたり、遺言書の写しの交付を請求することができます。

 

また、遺言書原本を保管している遺言書保管所に対して、閲覧請求を行うこともできます。

 

上記の交付請求又は閲覧請求があった場合、遺言書保管官は、相続人、受遺者及び遺言執行者に対し、速やかに、当該被相続人にかかる遺言書を保管している旨を通知します。

 

この通知がなされることにより、相続人、受遺者及び遺言執行者は、被相続人にかかる自筆証書遺言書の存在を知ることができます。

 

5.改正法の施行日

5-1.自筆証書遺言の作成方式の緩和

自筆証書遺言の作成方式の緩和(財産目録部分については、自書しない方法も選択できる)は、平成31年1月13日に施行されました。

 

したがって、同日以降に自筆証書遺言を作成する場合、緩和された方式にて遺言書を作成することができます。

 

5-2.法務局における遺言書保管制度

法務局に対して自筆証書遺言の保管申請をすることができるのは、令和2年7月10日からとなります。したがって、その日よりも前に、自筆証書遺言の保管を法務局に申請することはできません。

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