遺産分割の対象とならない財産や権利には、大きく分けて、そもそも相続財産に属しないものと、相続財産に属するものの遺産分割の対象とはならないものがあります。
そもそも相続財産に属しない財産や権利としては、①被相続人の一身専属上の権利義務、②生命保険金、③祭祀財産等があります。
相続財産に属するものの遺産分割の対象とはならない財産や権利としては、①相続債務(被相続人の借金等)、②預貯金債権以外の可分債権等があります。もっとも、これらについては相続人全員の合意により遺産分割の対象に含めることは可能です。
目次
1.総論
遺産分割の対象となるのは、原則として、被相続人の死亡日(相続開始日)及び遺産分割時において存在する相続財産です。具体的には、被相続人の不動産、預貯金、現金、株式等の有価証券、自動車等があります。
遺産分割の対象となるのは相続財産ですので、そもそも相続財産に属しない財産や権利は遺産分割の対象になりません。
また、相続財産に属する財産や権利であっても、相続債務や、預貯金債権以外の可分債権については、相続開始により当然に分割されるものとされているため、遺産分割の対象にはなりません。
2.相続財産に属しない財産や権利
相続財産に属しないために遺産分割の対象とならない財産や権利には、例えば次のものがあります。
①被相続人の一身専属上の権利義務
一身専属上の権利義務とは、その人のみに帰属する権利義務のことをいい、扶養請求権、身元保証人たる地位、公営住宅の使用権、生活保護受給権、会社役員の地位等があります。これらについては相続の対象とはならないことから、遺産分割の対象にはなりません。
②生命保険金
生命保険金請求権(死亡保険金)は、被相続人の死亡によって生じる権利で、被相続人に属さない権利なので、原則として相続財産に属しません。そのため、遺産分割の対象にはなりません。
③祭祀財産(位牌、仏壇、墳墓など)
祭祀財産は、原則として慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継しますので、相続財産に属さず、遺産分割の対象にはなりません(民法897条1項本文)。また、遺骨も遺産分割の対象にはなりません。遺骨について詳しくは、次のQAをご参照ください「遺骨は誰が取得することができますか」
3.相続財産に属するものの遺産分割の対象とはならない財産や権利
相続財産に属するものの遺産分割の対象とはならない財産や権利には、例えば次のものがあります。
①相続債務
相続債務とは、被相続人が負っていた債務(借金)のことをいいます。相続債務は、相続開始と同時に法定相続割合に応じて相続人が承継します。
なお、遺産分割協議の中で、相続人の一部が相続債務を全て負担する、という合意は可能ですが、債権者の承諾を得ない限り、他の相続人は、相続債務の負担から免れることはできません。
②預貯金債権以外の可分債権
可分債権とは、被相続人が第三者に対して有していた債権のうち、性質上分割可能な債権のことをいいます。代表的なものは金銭債権です。
判例上、預貯金債権については遺産分割の対象になるものとされていますが(最高裁平成28年12月19日決定)、その他の可分債権については相続開始により当然に分割されるものとされていますので、遺産分割の対象になりません。もっとも、相続人全員の合意により、可分債権を遺産分割の対象にすることは可能です。
参考条文
民法
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。(祭祀に関する権利の承継)
第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。最高裁平成28年12月19日決定
「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」